「あ、雨、降ってる……」


蔵と出かけた帰り道

少し休憩しようと立ち寄った喫茶店から外へ出ると

雨が パラパラと降っていた


「ほら、入り」


いつのまにか傘を差していた蔵が わたしへ手招きする


「わたしも傘 持ってきたから、大丈夫だよ」


蔵の誘いを断り 鞄の中を探る


「あれ?」


出がけに 夕方から雨が降るかもしれないから傘を持って行きなさい と母に言われ

折り畳み傘を鞄の中に入れておいたはずなんだけど……


「おかしいなぁ。確かに傘 入れたはずなんだけどなぁ」


忘れてきたんだっけ?


「はよ、入り。雨が弱いうちに帰ったほうがええやろ」


鞄の中を覗き込みながら うんうん唸ってるわたしに再び声をかける

雨が本降りになってしまったら きっと傘が一つじゃ間に合わなくなっちゃう

蔵の言うことも もっともだ と思い  蔵が差す傘の中へ入る


「そうだね。それじゃ お邪魔します」

「お邪魔しますってなんや。はおもろいなぁ」

「え? お邪魔しますって……変?」




しばらく歩いていると


「さて、これは何でしょう?」


何かを鞄の中から取り出した蔵は わたしにそう言いながら差し出す


「え? って!? わたしの傘!!」


やっぱり ちゃんと持ってきてたんだ

でも なんで 蔵が持ってるの?


「もしかして、わたし、どこかに落っことしてた?
 拾ってくれたんだ、ありがと、蔵」


蔵から傘を受け取ろうとすると ヒョイッと傘を持ち上げ

また 鞄の中に入れてしまった


「ちょ……ちょっと、蔵!?」

「まったく、はスキが多すぎるわ。
 俺が傘取ったの、気ぃつかへんかったやろ」

「いつのまに……」

「さっき。喫茶店の中で。
 鞄の中片付ける 言うて、テーブルの上に荷物置いたやろ。
 ちょうどそん時、窓の外を見たら、雨が降っとってな。
 とアイアイ傘したいなー 思て」

「それなら、そう言ってくれればいいのに」

も傘持っとったら、お願いしても、俺の傘に入ってくれへんやんか。
 甘えてええでって言っとんのに、なかなか甘えてくれへんし。」

「確かに……自分も傘を持ってるんだから、自分で差すって言ってたかもしれないけど……」


だって 蔵に傘差してもらうなんて 悪いじゃない

蔵の傘だって そんなに大きいわけじゃないし

二人で入ったら 絶対わたし優先で

自分は雨に濡れちゃってもいい なんて思うでしょ 蔵は


……」

「なに?」


蔵に呼ばれて 蔵のほうへ顔を向けると

突然 視界いっぱいに広がる 肌色

唇に感じる 柔らかい感覚


「せやから はスキが多いって言うたやろ」


わたしの顔を覗き込んで 蔵がニコリと笑う


「ちょっ!な…何して……!?」

「顔真っ赤やで、。今更照れることないやろ」

「だ、だって、突然だったから……」


今度は蔵に抱きしめられる


「く……蔵…?」

「別々に傘差しとったら、こういうことできへんしな」


耳元でささやかれる

蔵の吐息が耳にあたって くすぐったい


「だからって、別に、こんな街中でしなくたって」

「こんな街中だからしたいの。
 俺たちラブラブなんやで〜〜って、見せつけたいし」

「見せつける必要なんてないよ。恥ずかしい…」

「まったく、はかわいいなぁ」


蔵は笑いながらそう言うと わたしのほっぺをプニッとつねる


「さて……と。少しスピードアップしよか。
 本降りになってきそうや。
 が風邪でも引いたら敵わんしな」


なんだか いつもいつも 蔵のペースに乗せられてる

でも それが とても心地いいって思ってる

蔵はいつも わたし優先にしてくれるから

蔵に負担をかけないようにって 

できる限り自分のことは自分で…って

蔵に甘えるってことは あまりしないけど

甘えたいな って思ったら 思いきり甘えてもいいのかな?


「ねぇ、蔵?」

「ん?なに?」

「腕…組んでもいいかな?」

「もちろんええに決まっとるやろ。遠慮せんと どうぞ」


そっと 蔵の腕に自分の腕を絡ませる


「ほんなら、行こか」


一つ傘の下 蔵と二人 並んで歩く


傘に パラパラ と当たる雨音がリズミカルで

私のドキドキな気持ちと 嬉しい気持ちを 歌ってるみたい


アイアイ傘も たまにはいいよね





end





ヒロインのモデルはよつばみち管理人の舞さん。
ということで、ヒロインは標準語をしゃべっております。
舞さんの蔵への愛がブログからひしひし…と伝わってきていたので、
何かラブラブ〜〜vとさせてあげたいなぁなんて思って創作しました。

楽しんでいただけましたらうれしいです。


月城更紗