わがままで、泣き虫で、すごく手のかかる存在。分かってる、自分で。
そんな私だから、友達も少なくて、毎日学校へ行くのが嫌で仕方なかった。
でも、謙也は私にそのままで、そのままががいいって言ってくれた。
そのままの私が好きだと言ってくれた。
だけど、怖くて。自分で自分がわがままだと分かっていたから
好きだと言ってくれた謙也に嫌われるのが怖くて、我慢しようと思った。
「、今日一緒に帰ろうや」
「う、うん…!」
謙也が声を掛けてくれる。一緒に帰ろうって、言ってくれる。
私は怖くて、自分からは何も言えないから。
わがままを言って、うんざりされて、捨てられることが怖くてたまらない。
少しでも謙也に好きになって欲しい。だから、私は何も言わない。
「帰り、どっか寄ってくか?」
「け、謙也が行きたいとこあるなら」
「ほんなら、スポーツ用品店寄ってもえぇ?グリップテープ切れてしもてん」
「分かった」
ただ微笑んで、頷いて、謙也の希望は全て受け入れて。
そうすればきっと、謙也は私のことを捨てないと思うから。
謙也が楽しいなら、それで構わないから。
だから、私は謙也の隣に居たい。謙也に好きで居て欲しい。
失うことは怖くて怖くて、泣き崩れてしまいそうだから。
「なぁ、はどっか行きたいとこないん?」
「特には…ない、よ?謙也が行きたいとこなら、何処でも良いし。
謙也がしたいことなら、何でも良いよ。私は一緒に居られるだけで良い」
「……なんか、無理してへん?」
少し、謙也の声のトーンが下がった。
いやだ、いやだいやだ。怖い。捨てないで。私、わがまま言ってないよ?
やっぱり駄目なのかな。私は人に好きになってもらえるような子じゃないのかな。
じりじりと心が音を立てながら、焦げるような気がした。
「し、してない、よ」
「嘘やん。何で?俺、そのまんまのがえぇって言うたよな。
ずっと見とって、好きやってんから、無理してんのくらい分かるで」
「…だ、って……わがまま、だと…うざい…でしょう…?」
あぁ、こういうところも、うざいのかな。涙が零れそうになる。
でもダメ。泣いたらもっとうざい子になってしまう。
そうやって、前も捨てられたんだ。わがままで、泣き虫で、うざいって。
付き合ってられないって。疲れるって。そう、言われたんだ。
「俺は好きな子にはわがまま言うて欲しいで?は我慢しすぎや」
「そんな…そんなこと、ないよ…わがままで疲れるって、言われたもん」
ぽん、と頭に手を置かれて、謙也の温もりが伝わってくる。
恐る恐る謙也の顔を見ると、少し呆れたような表情で。
「あんなぁ、前の自己中ナルシスト野郎と一緒にせんとって。
アイツはおかしいねん。は全然わがまま言うてへんやんか」
「で、でも、きっと謙也も私がわがまま言ったら、うざいって思う…よ?」
「思わへん。試しに言うてみ?わがまま」
謙也の手がするりと頭から頬へと滑り落ちてきて、さっきよりもずっと謙也の体温を感じる。
あったかい、優しい温もり。我慢していた涙が、ぽろりと零れ落ちた。
一度零れ落ちてしまうと、涙はぽろぽろと止まることなく溢れていく。
「手、とか、繋ぎたい…あと、プリクラとか、一緒に撮りたい…。
デートもいっぱいしたいし、おいしいクレープ屋さんにも行きたい」
「のわがままってそんな程度なん?全然わがままになってへんで」
笑いながら、謙也は私の頬をゆっくりと撫でてくれた。
初めて付き合った人は、ぜんぶぜんぶ、めんどくさい。わがまま言うな。そう言った。
だから私がそう思うことは、わがままなんだと思ってた。
でも、謙也はそれをわがままじゃないって、笑ってくれる。
「気ぃ使いすぎやねん、は。お人好しすぎるわ。ま、そんなとこも好きやけど」
「わ、私…わがまま、言っても良いのかな?」
「えぇって。しかものそれ、わがままちゃうくてお願いやろ?可愛えモンやで」
頬を撫でている手とは反対の手で、そっと私の手を握ってくれた。
こんなに近くに謙也が居て、笑っていて、優しくて。
謙也を好きっていう気持ちが、どんどん大きくなっていく。
「我慢して、好かれようとせんとって。俺はそのまんまのが好きやで」
「私っ、私も、謙也が好きだよ…っ」
「素直に何でも言うてな。俺はその方が嬉しいんやから」
無理をして、我慢をして、嫌われないように必死だった私を
ふわふわした優しさで暖かく包んでくれる謙也が、大好き。
謙也になら、ひとつひとつ、少しずつでも、素直になれる気がする。
謙也を好きになって、少しだけど、自分を好きになれる気がする。
今はまだ、少しだけだけど。でも、謙也が教えてくれたから。
「ありがとう…謙也、大好きだよ」
「俺も、のこと大好きやで」
や さ し す ぎ る あ な た と
悪 あ が き
(俺の前では、ありのままの自分でおってな?)
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