通学路を吹き抜ける冷たい風。
そんな中を、一人ずんずん大股開きで突き進む帰り道。
マフラー無しでは耐えられない冬の寒さも、今日は怒りで体が熱いから問題ない。



ー」

「うるさいうるさいっ!」

「機嫌治してくれんと?」

「ったりまえよ!」



私の隣をいつも通りの歩幅で着いてくるのは千歳千里。
怒りの原因で、同じクラスメートで、隣の席のもずく野郎。 くそーっ!その足の長さを自慢してるような感じが腹立つ!



「て言うかあんた部活は!?」

「オサムちゃんにはちゃんと言ってきとるよ」

「いや、私が言ってるのはそこじゃないし!」



いつものノリで、反射的にツッコミをしてしまう。
ハッと、すぐに自分がこいつに対して怒っていたことを思い出し、「いつものやね」と嬉しそうな顔をした千歳に
更に腹が立った。



「帰れ!というか戻れ!」



今まで歩いて来た道を指差しながら、千歳に言う。
しかし千歳は訳がわからないと言う表情を浮かべた後、首をかしげた。この男……っ!



「今っ私は!あんたの顔を見たくないの!」



見上げて疲れたけれど、それでも千歳から視線を離さずに宣言。
本当はそこまで思ってないけれど、全然悪びれてない千歳を見るのが嫌で。
びっくりしたのか、目を見開いた固まった千歳を置いたまま、私は再び歩きだした。 勿論自宅に向かって。





「……なによ」



しかし、千歳から手を捕まれたせいで足が止まる。
捕まれた手は思っていたよりも力強くて、振りほどこうとしたけど諦めた。
振り向いてなんかあげないけど。



「なして……なして怒っとるとね?」



ん?と千歳の言葉を聞いて、私は固まった。
ゆっくりと振り返り、千歳を見て、真面目に先ほどの言葉を言ったのだと理解して……口元がひきつる。
あぁ、こめかみまでピクピク動いてるよ。



「あんた、意味も分からず謝ってたわけ?」

「……」



無言の肯定。流石の私も怒りが頂点に達した。ドカーン。



「こっんのー!!」



捕まれていた手を無理矢理振りほどき、懇親の力を込めて千歳を睨む。
小指を柱にぶつけてしまえと呪いながら。



「忘れるなんて最低だよあんた!もう絶交だ!」

「ばってん俺はの機嫌損ねた記憶はなかばい!?」

「だー!まだ言うかこのもずく!」

「もずく!?」

「『は妹みたいなもんたい』って言ったのはあんたでしょ!」



そう、いつものように教室で千歳と喋っていたとき。
クラスの女子が二人はいつも仲が良いよねって言ってきた。
まぁなんですか、仲が良いと言えばそうだし、私がこいつに好意を寄せてるからこんな風に話しかけているわけで。

端から見たら仲良しで、私から見たら片思いの相手で、こいつから見たら――



「妹っ、だなんて……」



そんなの、お前は恋愛対象外ですって言われたようなもんだ。
私はブロークンハートなんだよこんちくしょう!



「そげなこと言った記憶は……」

「無いとか言ったら、容赦なく殴る」



続いて出てくるであろう言葉は、千歳が口を閉じたため聞くことは出来なかった。
本当に『覚えてない』って言うつもりだったのかい……!
それすらも記憶に残らなかったことが悔しくて、苛立って、少し悲しくて。



「す、すまんばいね」

「帰る」



千歳と顔を合わせることなく、私は踵を返した。 だってこんな顔、見られたくないし。
きっと今の私は先程以上に千歳に酷いことを言う。止める千歳なんて無視して、私は走り出した。
叫びながら。



「っ、このもずく野郎めー!」

「ちょっ、待たんね!」

「断っ!ほっ、ぎにゃー!」



が、しかし。

ものの数秒で私は千歳に捕まり、不意に体が浮いた。視界が急に高くなる。
今まで足元にあった硬い地面がなくなり、その代わり宙に浮いた。

やっと地面から足が離れたのだと気付いたときには、私の顔のすぐ近くに千歳の顔があった。
足と背中には千歳の腕を感じて、密着している場所には熱を感じて。
なにがなんだか分からない私は、とりあえず口を開けたまま千歳を凝視した。



「やっと俺のことを見てくれたばいね」



違うわど阿呆!と否定しようにも、口は金魚のようにパクパクと動かすだけで言葉は出ない。
顔は熱だけを持つ。

やっと日本語を喋れるようになったのは、千歳が私を抱っこしたまま学校へと向かい始めてからだ。



「ちょっ、やだ、馬鹿!下ろしてよ!」

「なんでね?」

「誰もあんたの意見は聞いてない!って、止まれー!」

「学校に戻るまで、はこの状況ばい」



知るかーっ!とバタバタ暴れながら、それでもしっかりと支えられている千歳の手に
泣きそうな位嬉しくなった。千歳の足は止まらない、私の心臓のドキドキも。



「なんでこんなことするのよ……!」

「みゆきが拗ねたときも、よく連れて帰りよったなぁ」

「あんたねぇ!」

「けど、こげんドキドキしながら連れて帰るのは初めてやな」



よいしょと私を持ち直しながら、小さな呟きが聞こえた。

数秒意識が飛んだ後、千歳を見上げてみたけど目を逸らされた。なにそれ、なにそれ。
期待して良いの?期待しちゃうからね?


私のドキドキと、あんたのドキドキが一緒だって。








 足元からぐわり、と








(って、私はいつまでこの状態!?)

(みんなに知ってもらうには、これが一番たい)

(知って、もらう?)

(やっとを捕まえたことを)











お題に沿っているか沿っていないか、なんとも微妙な小説で
本当に申し訳ありません…!素敵な企画に参加させてくださり、
本当にありがとうございました.
R.Akasui(10/1/24)