「なぁ、さん、知っとる? アイツな、めっちゃ低体温なんやで」




今、ちょうどいい温度で




「光くん」
「何や」
「忍足先輩から聞いたんやけど、光くんて低体温なん?」

 突然何を言い出すかと思ったら、はそんなことを俺に尋ねた。
 またあの先輩はくだらんことを。俺がとつきあっていることが知れてからは、はやけに先輩達に気に入られ、俺について、あることないこと、色々と吹き込まれている。
 それにしても、せっかく久しぶりに俺の部屋でデートだというのにこんな会話じゃムードのかけらもない。というより、の口から『忍足先輩』という単語が出てくるのが気にくわない。俺の知らんところで、何で会うてんねん。

「……せやな」
「いつも体温、平均何度くらい?」
「35度とか」
「それめっちゃ低いやん!私いつも36度5分くらいあるのに」
「……は標準なんやな」

 少しだけ機嫌の悪い俺の様子には微塵も気付かず、は言う。

「なぁ、光くん」
「何」
「さわってみてもええ?」

 俺はまだ「ええよ」なんて一言も言っていないのに、の手はすでに俺の頬に触れている。

「ほんまやぁ。普通の人よりひんやりしてる」
「……俺、さわってええ言うてないで」
「え、ダメやった?」
「別にそういうわけやないけど」

 は俺の頬がひんやりしているというけれど、俺にとっての手は熱い。その熱さが妙に心地よかった。そのままはぺたぺたと俺の額や首のあたりをさわっていく。だが、至近距離でそんなに触れられると、さすがに俺も照れてきた。

「……あれ、光くんさっきよりなんか熱いで。きっと今熱測ったらちょうどええくらいなんちゃう?」
「気のせいや」
「気のせいちゃうもん。もしかして照れてる?かわいい」

 相変わらず俺の顔に触れながら、は笑う。
 かわええのはどっちやねん。

「……男にかわいいなんて言うもんやないで」
「……ごめんなさい」
「仕返し」

 そのままの頬に触れると、今度はが一気に真っ赤になった。

「わぁ、やっぱりこれ結構恥ずかしいもんなんやなぁ……」
「今さら遅いわ」

 の頬も熱いのだろうけれど、俺の手も熱くて、それはよくわからない。今俺達の体温は正確には何度なのかわからないけれど、その熱さが、きっと俺たちの気持ちを浮かせるには丁度良かった。そのまま目が合って、キスの前の、沈黙。
 ――今回ばかりは先輩に感謝せなあかんなぁ。
 そんなことを思いながら、俺はのくちびるに自分のそれを近づけた。



Fin.
2009.4.4
企画「よつばみち」さまに提出させていただきました!