なにもかも


生意気とか素直やないとか言われるけど仕方ないやん。
天の邪鬼なんやし。
思っとるのと違う事言うてしまうんは本当の気持ち隠す為。
自分から言うのて、何や自分の癪に障るんや。
ちゅーか恥ずかしいやん。
特に好きな奴の前では。
まぁ、好きやなんて絶対言ったらんけど。

、歯に海苔ついとるで」
「え、ウソ!?」
「嘘」

の反応に笑いが込み上げてくる。
表情がコロコロ変わるからからかうのがやめられない。
頬杖をついて笑えばはムッとして俺を叩いてくる。
その行動が可愛く見えて仕方ない。

「光のバカ!」
「…誰がバカやって?」
「…私です、すいませんでした」
「よろしい」

がそう言えば満足した表情で微笑む。
そして机に伏せて寝始める。
放置されたは、邪魔をすると倍返しされる事が分かってか、いつも黙っている。
横目で見れば本を読んでいる姿が目に入る。
その様子が綺麗に見えて、俺は再び伏せた。
目を瞑って寝ようとしても寝れなくて、あっという間に授業が始まるチャイムが鳴ってしまった。
のせいや、と心の中で責任転嫁にも似た毒づきをしながらゆっくりと起き上がる。
ふとの視線を感じてそちらを向けば読んでいた本を閉じてこちらを見ていた。

「寝れた?」
「…うっさいわボケ」
「な、何なんっ!」

目を丸くさせて驚く様は俺の中ではかなり可愛く思えて、思わず口に出してしまいそうになり反射的に顔を背けて黒板を見た。
その時にはもういつもの無愛想な表情にして、の方には見向きもしなかった。
しばらく視線を感じていたけれど、わざと気付かないフリをしてその時を過ごした。






「…しもうた」

放課後になって鞄を持って部室へと行って初めてタオルを忘れたことに気付いた。
部長に一言伝えて了承を得ると小走りで教室へと戻る。
下駄箱を抜けて廊下に入ればのんびりと歩き始めるんやけど。
部活の前に余分な体力使ってどないすんねんって話や。

「え…マジで!?」

ふと、自分のクラスの教室から声が聞こえる。
こないな時間に誰がおるんやろ、とこっそり覗いたらと、その友達やった。
何のサプライズなんやろうかこれは。
俺はしばらくその場から動けなくて、会話を聞いていた。

「あんな酷い事言われとるんにあんた財前くん好きなんか…」
「う、うん。ちゅうか構ってもらえて嬉しい、みたいな」
…あんた、どうしようもないわ」
「え、何で!?」

俺の話をしていて正直驚いた。
が俺の事好きやって?
自分の耳を疑いたくなるような事実に更に驚いた。
そして教室に入るタイミングを逃した事に気付き、その場に座ってしばらく会話を聞いていた。

「やってな?財前くんてあんま他人に興味なさそうなんに、私には構ってくれるやん?」

そりゃ好きな奴やからな。

「財前くんが他の女の子に私と同じような事しとるん見た事ないからもしかして…って考えてまうんよ」

ドンピシャ、正解や正解。

「ちゅーかああ見えて実は優しい面あったりするねんで!」

ああ見えてって所が引っかかるんやけど。

「…で、あんたは財前君のどこがえぇん?」
「全部。なにもかも」
「…付き合ってられんわ」
「何で!?」

友達がハァ、と大袈裟な溜め息をつくのが聞こえた。
俺は何だかいてもたってもいられなくて、立ち上がると勢いよく教室の扉を開けた。
ガラッという音が響く。
二人は目を丸くさせて凄く驚いた表情をしていた。
は動きが完全にストップしていて、口をあんぐりと開けたままになっている。
その友達と言えばより一足先に我に返って自分の鞄を持ってほな!とか言いながら教室を出て行った。
俺は扉を閉めるとゆっくりとに近付く。
一気にシン、となる教室。
中には俺との二人だけ。

「…き、聞いてたん?」
「何を?」
「い、今の会話や…」
「さぁ…何のことやろ?」

首を傾げ、とぼけてみればの顔は真っ赤になり、俯いてしまう。
逃がすまいとの手首を掴んで自分の方を無理矢理見させる。

「…それで?誰が誰のこと好きやって?」
「……が…を…」
「聞こえへんけど?」
「私がっ!財前君をっ!」

恥ずかしさからか、の目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。
可愛え、と思った。言ってやらんけど。
俺はあえて無表情のまま、に質問を続ける。

「…で、どこが好きやって?」
「全部聞いてたくせに…」
「何か言うた?」
「…いえ何も……」
「…で?」

手を伸ばし、指先での目元を拭う。
そのまま頬に触れる。やっとは顔を上げる。
まだ顔は赤らめている。

「なにもかも。全部。財前君の全部が好き、や…」

か細い声でそう告げる
頭を撫で、頬を撫で、俺は言った。

「…えぇか、一度しか言わんからな」
「……?」
「俺もが好きや」

そう告げて開きかけた唇にキスをする。
目を見開いている、のその表情はおかしくて、心の中で笑ってしまった。

「な…なん……」
「ん、よし」
「何がよしやねんっ!全然よくないわっ!」
「じゃあ何ならえぇん?」
「…も、一回…やり直し…」


ふくれっ面も可愛え、ほんまに。
思わず笑みを浮かべれば、再びの唇に自分のそれを重ねた。






<2009.06.14>
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