白いドレスに白いベール、薔薇のブーケに髪飾り

今日、私の夢が叶う














小さな胸に抱いたゆめ















 」




誰もいない部屋で、斜め前には鏡

私は今、自分で選んだドレスを着て 椅子に座ってる

呼ばれた声に目を上げると、鏡越しに見えるドアの前で立っている蔵が見えた





「蔵、まだアカンって言うたやろ? 」





ドレスを選ぶ時も、ドレスを決めた時も 私は絶対蔵の前に姿を見せなかった

小さなこだわりだって人は笑うのかも知れないけれど、結婚式の日、バージンロードを歩いて来る時に初めてドレス姿を見せたかったんだ

なのに、まだ式の前だよ 蔵





「待たれへんかったんや 」

「今日まで見せんように頑張ってきたんやで? 」

「せやな、けど・・・ 」





言いながら、一歩ずつ蔵がこっちに歩いて来る

シルバーのタキシード、胸に飾られたブーケと同じベージュピンクの薔薇

磨かれたエナメルシューズに、右手に持った手袋

鏡越しに見える姿にドキドキして、ただその姿をじっと見ることしかできない






「やっぱり、見に来といて良かったで 」

「何で? 」

「こんな可愛え姿、先に他の奴等に見せるわけにいかへんやろ? 」

「・・・・・・・ 」

「それに、今までずっと焦らされてきてるし 」

「べ・・・別にそんなつもりじゃ 」

「俺にしたらそういうことや 」

「・・・ごめん 」

「謝らんでもええよ 」

「うん 」

 」

「ん? 」

「めっちゃ綺麗やで 」






蔵が私の真後ろに立って、少しかがんだ蔵の腕で後ろから抱き寄せられる

むき出しになってる肩に蔵の頬が当たって、髪が首筋をわずかにくすぐるから私は思わず身を竦めた





「ちょっ・・・蔵 」

「何や? 」

「あの・・・ちょっとくっつきすぎ、じゃないかな? 」

「何言うてるん、俺との仲やろ? 」

「そういう意味じゃなくて・・・さ 」





私が言うのもおかまいなしで、蔵はそこから動こうとしない

でも、蔵とくっついていることで感じられる安心感が心地いいから まわされた腕に手をかけた





「あのな、蔵 」

「何や? 」

「小っさい頃な、夢があってん 」

「どんな? 」

「お姫様が出てくる話が好きやったから、いつか自分もって 」

「そんで? 」

「綺麗なドレス着てな、そしたら王子様が迎えに来てくれるん 」

「可愛え夢やな 」

「・・・キャラと違う、って思ったやろ? 」

「そんなことあらへんで 」

「今日、夢が叶うん 」

「王子様って柄でもあらへんけどな、俺 」





そんなことないよ、蔵

一部の隙もないタキシード姿、抱き寄せてくれた腕、耳元で聞こえる甘い声

全部、私の理想の王子様やで?





「そんで・・・ 」

「ん? 」

「物語はそこで終わりなん? 」

「何が? 」

「王子様が迎えに来て、それで終わりなんか? 」

「え・・・っと・・・・そこまで考えてへん。せやかて小っさい頃やし 」

「そしたら俺が、そっから先の話作ったる 」

「どんなん? 」

「王子様とお姫様は、末長く幸せに暮らしました 」

「・・・・うん 」

 」

「ん? 」

「一緒に、頑張って行こな 」

「うん 」





まわされたままの腕で少しだけぐっと引き寄せられて 蔵の体がわずかに傾ぐ

首筋に落とされた淡いキスは くすぐったいような甘い余韻を残す




あのな、蔵

夢の先の物語は考えてへんかったけど

小っさい頃より 欲張りになってん、私

王子様が迎えに来てくれて、そんで・・・




ガチャリと音を立ててドアが開く

そこからなだれ込むように入ってきた旧友たちの姿が鏡越しに見えた

蔵が私の首元から顔を上げて、同じものを見て小さく溜息をつく





「相変わらずっすね、部長 」

「おめでとうさん、 」

「ん、ありがと 」

〜〜!!めっちゃ可愛えやんか! 」

「ほんま、めっちゃ綺麗やわ〜。蔵リンも格好ええし(はぁと) 」

「小春っ!浮気かっ 」

「ええやないの。今日はお祝いの日なんよ? 」

「先輩ら、相変わらずキモいっすわ 」

「財前、口悪いで 」

「すんません 」

「で、お前ら何しに来たんや? 」

「何って・・・お祝いに来たんやで!!白石もも、おめでとうさん!! 」





あの頃よりも随分大人びた金太郎がそう言って、皆も口々にお祝いの言葉をくれる

蔵は少し苦笑しながらそれを聞いてる





王子様が迎えに来てくれて、皆に祝福されて幸せな花嫁になるんが 今の私の夢なん

夢、もう叶ったも同然やんな?





昔みたいにじゃれ合い始めたテニス部のメンバー達の喧騒を幸せな気持ちで聞いていたら、蔵が右隣に立った






「蔵 」

「何や? 」

「ありがとう、な 」

「お礼言われるようなこと、してへんで 」

「ええの。蔵がここにいてくれて、良かった 」

「俺はそうでもあらへんな 」

「何で? 」

「邪魔、入ってしまったやろ? 」






ベール越しに耳元に寄せられた唇が わずかに動く






「続きはまた後で・・・な? 」






頷く代わりに、私は隣の蔵の左手をぎゅっと握った












END














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「よつばみち 」様参加作品です。タイトルを見て、ベタですけども「蔵を王子様にしてしまおう!」と思ってしまいまして・・・。
そんな私の希望が前面に出てきている夢になりました。書いていてとても楽しかったです!
舞さま、素敵な企画に参加させて頂き、ありがとうございました。

background BY 空に咲く花さま