− 君に繋がる暗号 −
昼休みは図書室で過ごすのが私の日課
たまに友達と勉強したり、声をひそめてしゃべったり
でも、だいたいは1人でいることが多くて
パズルの雑誌が私のリラックスタイムのお供
けど…
最近はリラックスどころか、ドキドキしっぱなしの時間になってる…
昼休みは視聴覚教室におるか屋上におるか食堂におるか
とにかくどっかで音楽聞いてるかクラスのヤツらか先輩らとしゃべっとって
だいたいは1人でおることが多いんやけど
たまに図書室でパズルの雑誌読んだりする…暇つぶし程度に。
けど…
最近はその暇つぶしが、あの人との唯一のつながりになってもうてる…
あ…今日もや…
いつもの雑誌を手にしたら、ペーパークリップで留められたレポート用紙が1枚はさまれてる。
紙に書かれてんのは手製のクロスワードパズル…しかも、英語の。
最初、これが私への挑戦状ってことに気付かへんかった。
けど、今はそれが私宛やってわかってる。
私しか解かへんジャンルのパズルのページばかりにはさんでるから。
いまだに誰からなんかはわからへんけど、めっちゃパズルが得意な人やってことは知ってる。
今回も難しそうやわ…
けど、がんばって解こ!
お気にのシャーペンを手にして、真剣勝負に身構えるような気持ちでその紙をにらみつけた。
あ…もう解いたんや…
いつもの雑誌に俺が留めといたレポート用紙は、俺がはさんだ時と同じくはさまれたまま
けど、1つ違うのはもうきちんと解かれてるってとこ…
しかも、今日の昼休みの短い時間にや。
あれ…結構、苦心して作った自信作やったんやけどな…
さすがやな…あの人。
けど、解けてもこのクロスワードの答えが暗号になってるてことにはまだ気付いてへん。
それが証拠に、まだ、あの人は俺にたどりついてへん。
気付いてほしいて思いつつ、まだまだこの状態でいたいとも思うんは…
俺が思ったよりも臆病なせいやろか…
息を1つつくと、次の問題をどうするか頭の中でめぐらせた。
始まりはパズルの月刊誌
図書室の新刊コーナーの横にあるラックにいつも数冊置いてあって
本来、本や雑誌に書き込みは禁止やけど、パズルの雑誌だけは誰が書き込んでも解いてもOKて先生のお許し済み
だから、パズル好きな人たちが片っ端から解いてる。
クロスワード、漢字クロス、ナンプレ、サムクロス、スケルトン、ロジック…
数々の種類のパズルの中には超難解な問題もあって、みなが夢中で解いてる。
1番人気はやっぱクロスワードやな…載ってる数も多いしな。
あと、ナンプレも人気あるやろな、理数系の人らがよう解いてるし。
けど、私が好きな英語系や音楽系のパズルは難易度高ランクの上に、ルールがややこしいてとっつきにくいこともあって、ほとんど解かれることなく放りっぱなしのことが多い。
そやから、私だけが独占してる。
ほんの数週間前までは…やけどね…
きっかけは単純なことやった。
課題のための本を探さなあかんて図書室へ行った時
窓際に座ってる女子を見て、足を止めた。
気になったんはその女子とちゃう…
手にしてた雑誌の方やった。
あれ、俺がよう解いてるパズルのやつや…
ここの図書室には数冊だけパズルの月刊誌が置いてある。
別にパズルが好きやってわけでもないんやけど、その中の音楽系と英語系のパズルは結構手応えあっておもろかったから、たまに解いてる。
けど、あの雑誌…女子が解いてるん見るんは初めてやな…
あの中でも結構難易度高いもんばっかりのってるやつやのに。
どれ解いてるんやろ…
さすがに俺が解いてるジャンルと同じてことはないやろうけど。
その時はそれくらいしか思うてへんかった。
それ以上は気にせんと課題の本を探すのに真剣になっとったんやけど…
その子が雑誌を元のラックに戻してるのが視界に入った時…
どれ解いてたんやろうて何や気になってもうて、課題の本そっちのけで雑誌を手に取ってみた。
たった今置かれたばかりやったから、開き癖がついてて、すぐにどれ解いてたんかわかった。
これ…英語のクロスワードのやつやんか…
しかも、俺が難しいて思うてたやつや…
全部解けてるわ…信じられへん…
字を見て、あっ…て思うた。
この字…見覚えあるわ…
この字を書くやつがめっちゃパズルが得意で、俺が解くの断念したやつもあっさり解いてたことがようあった。
いったい誰なんやろってずっと気になってたんや。
そうやったんや…
女子っぽい字やて思うてたけど…
あの子やったんや…
前々から気になってる人がいた。
…といっても、雑誌の中のことやけど。
私と同じく英語系や音楽系のパズルばっかり解いてる人がおって
しかも、めっちゃ解くの早うて、私が解く前にほとんど解いてしまってる。
雑誌は数冊あるんやけど、どれも英語系と音楽系のパズルはその人が解いてる。
字でわかるんよ…ああ、いつもの人やって。
ずっと私しか解いてへんかったのに…
新しい参戦者が増えたんやな…
誰なんやろって気になり始めた頃…
彼は私にメッセージを書いてくるようになった。
『これ、解いてみて』
『難しいで、解けるて自信あるんやったらやってみせてや』
ページの端っこに書かれた文字は男の子っぽい文字
名前が書いてないから私宛とはわからんけど、それでもそのメッセージに応えた。
最初に気になったのは俺と同じパズルを解くやつの存在
けど、今は明らかに窓際に座ってパズルを解いている横顔が気になってしゃあない…
あの子…誰なんやろ…
気になって気になって
気になるのにどないも動かれへんで…
声をかけるて発想さえ出てこうへんくらい、見てるだけの立ち往生状態やった。
たまにしか行かへん昼休みの図書室
けど、今は毎日通うて…必死でアンテナ張って
1つ年上やってことと名前…ていうても苗字だけやけど…それだけは何とかわかった。
3年の先輩…か…
上の学年やったんやな…
どうりで廊下とかで会わんはずや。
こっち…見いへんかな…
こんだけ見てるんやから。
気づけ気づけ…て思いながら見てるんやけど…
心の中の声なんて、真剣に雑誌を見つめるあの人に届くわけあらへんかった。
それでも、俺に気付かせたいて強く思うた。
今のところの接点は、同じ雑誌の同じジャンルのパズルを解いてるってことだけ。
あの人が手にした雑誌が唯一の俺の伝達手段なんやとしたら…
これを利用せん手はないやろ…
その日から、あの人が解きそうなパズルのページの端っこにメッセージを書いた。
どんな反応するやろ…
そう思いながら雑誌を戻した。
ページの端に書かれたメッセージは挑戦的で簡潔な言葉
そういうのんに対して燃えるようなタイプやないから、怒りがゴオオッて増すわけやないんやけど…
何や…おもろいなぁ…
私と同じで英語系とか音楽系のパズルが好きな人、おるんやな。
しかも、めっちゃはよう解くこの人にメッセージもらうやなんて、何や認められた気がするわ。
…って単純にうれしくなった。
挑戦めいたメッセージをたたきつけてくるだけあって、めっちゃ難しかったけど、何とか解けた。
ますますうれしくなって、彼のメッセージの横に返しのメッセージを残した。
『解けたで!』
『めっちゃ難しかったぁ!』
勝手に書いたメッセージ
無視されるやろうかって思うたんやけど…
ページの端っこの彼女の文字を見て、ひそかに胸高鳴った。
俺の挑戦に乗ってきたわ…
返答もノリええし、この早さでこの難題を解けるのもええな…
ますます、俺の存在に気付いてほしなってきた。
けど、そやからといって単純に声をかけるてことは出きへん気がした。
何でやろ…
いつもの俺やったら別に声くらいかけれるやろうに…
この時の俺は自分がいつもとちゃうなってことには気付いてても、それがどういう意味なんかまではわかってへんかった。
「なあ、最近、図書室へ行くのん、めっちゃ早ない?」
「えっ?!」
興味津々で聞いてくる友達に、一瞬、反応が遅れた。
そしたら、ますます楽しそうな顔で聞いてきた。
「何かあるん?あるんやったら教えてや」
「な、何もあらへんよ…」
「ホンマに〜?」
「ホンマやって。ほら、ええ席ははよとられてまうから…」
「何や、それだけなんや」
「てっきり、誰かと待ち合わせしてんのかと思うたわ」
「そんなんとちゃうよ」て笑いながらも…
あぶな…
心の中では冷や汗かいてた。
めっちゃやば…
ばれてまうとこやったわ…気になる人がいるてこと。
友達にばれたら、めっちゃおせっかいやから、いろいろ言われそうやもんな…
最近はパズルへの挑戦状やなくて、その本人が気になってしゃあない。
誰なんやろ…
この図書室のどこかにおるんかな…
見渡しても雑誌を持ってる人なんてそうそうおらへんし…
だいたい、人が多すぎてようわからんし…
見かけたとしても、みんなでわいわいと解いてるのんしか見いへん…
みんなで解くようなタイプやないと思う。
会いたいな…会って、ゆっくり話してみたい…
最近ではそればかり考えてた。
「財前、最近、図書室行くんめっちゃ多ないか?」
「は…?」
部室で着替えしてる無防備な時に聞かれて、一瞬たじろいだけど、すぐに平静を取り戻した。
「別に…そうでも…」
「そうか?よう会うて師範や謙也が言うとったけど?」
「課題多いからちゃいますか…」
「何や、それだけか」
「俺はてっきり誰か気になる子でもおるんとちゃうかて思うたんやけどな」
「そんなんとちゃいますよ…」て言いながらも…
部長…めっちゃ鋭いわ…
内心ひやひやしてた。
先輩らにばれたら何言われるかわからへん…
ややこしいことになりそうな気もするし。
図書室に気になる子がおって、振り向かせたいて思うてるてこと…
絶対ばれへんようにせなあかん…
ホンマは、先輩らに話してみよかて迷ったこともあった。
まだ俺のことを知らへんあの人…
けど、俺かてあの人のこと、名前と学年しか知らん。
謙也さんたちに聞いたら、同じ学年やから、あの人の詳しいプロフとかわかるかもしれへん。
もしかしたら、おせっかいな先輩らやったら紹介してくれるかもしれへん。
けど…俺は…
俺の手で振り向かせたいんや…
それがどんなに遠まわしな方法やっても…
しばらく続いたページの端っこのメッセージ
けど、ある日…
あれ…何やろ…?
雑誌の間にレポート用紙が留められてる…
手に取ってみたら、何や難しそうな英語のクロスワード
うわぁ…ざっと見ただけでも難易度超上級クラスやん…
しかも、英語やし…
これ、手書きやないけど、手製っぽいな…
PCのソフトか何かで作ってる感じやわ。
何も言葉は書いてあらへんけど、今度はこれを解いてみててことやんな。
メッセージの代わりに寄越された挑戦状
彼がわざわざ私のために作ってくれたってのがうれしくて、急いで超上級クラスの問題に取りかかった。
ページの端っこに書いたメッセージだけでは俺のことには気付いてもらえへん…
気付いてもらうんやったら、もっとダイレクトに…
けど、雑誌での伝達手段はそのままに。
そう思うて、PCで英語のクロスワード作って、はさんでみたんやけど…
さすがやな…
昼休みにはさんどいたら、もう放課後には解けてあった。
さすがやけどな…
このクロスワードを解いた答えに暗号が隠してあることまではまだわからんやろう。
簡単な暗号なんやけど、今回の問題だけやったらわからへん。
毎日1問ずつ解いていったら、それにつながりがあることがわかるんや。
あの人は…
この暗号に気付いてくれるやろうか…
で…できた…!
あまりにもうれしくて、ポンてシャーペンを放ったら思いっきりコロコロと転がって、下に落ちそうになったからあわてて止めた。
昨日のも難しかったけど、今日のんもめっちゃ難しかったぁ!
クロスワードを解くと、言葉が現れるんやけど…
昨日は「LIBRARY」、今日は「PUZZLE」
ふう…
答えは簡単な単語でよかったわぁ…
めっちゃ難しいのんやったらどうしよて思うた。
明日もまたこれくらい難しいのがくるんやろうな…
パズルが解けるとあの人に少し近づいた気がして…
めっちゃうれしかった。
けど、私はまだ知らんかった…
このパズルの答えに暗号が隠されてることを…
この作戦は失敗やったかもしれん…
始めて3日目にはすでにうすうす気づき始めて…
5日目にはかなりの確率でそう思うた…
あの人…相当鈍感やったみたいや…
5日目のパズルも解けてたのに、まだ俺に気付いてへんのが証拠や。
挑戦状をつきつけたら、絶対解いてくれるてことは確信しとったけど…
鈍感な性格までは計算外やったわ…
解くだけ解いて、「はい、それでおしまい!楽しかった!」みたいな雰囲気があって…
満足そうにレポート用紙を眺めるあの人の横顔を見ては落ち込んでため息をついた。
はあ…
あほや…俺…
こないな遠まわしな方法、使うからやな…
今さら声かけるなんてできへん…どないな顔して何言うたらええかもわからへん…
謙也さんたちに言うたら、きっと「らしないことするからや!」て笑われるんやろうな…
らしないて…自分が1番思うてる…
声もまともにかけられへんくらい、あの人のことを思うようになるやなんて…
これが1番の計算外やったわ…
彼の手製のクロスワードを解くのが楽しくて…
夢中になってたら、肝心なことに気付くのが遅うなった。
そういえば…この答え…
「LIBRARY」「PUZZLE」「MAN」「TENNIS」「COURT」と続いたけど…
何か意味あるんやろうか…
そう思うたんはこの挑戦状が届いてから、5日目のことで…
もし友達に言うたら、「普通はもっと早くに気付くやろ!」て突っ込まれそうなくらい、気付くのんにめっちゃ時間かかった。
今までは雑誌の端っこにメッセージが書いてあるだけやった。
それが、最近、レポート用紙のクロスワードがはさまれるようになった…
この時点で彼が何かを訴えようとしてるて気付いてもええはずやのに。
やっと気付いたものの、この答えに何のつながりがあるのかまではわからへんかった…
ホンマにつながりがあるのなら…
彼からの暗号が隠されてるのなら…
解いてみたい…
彼が伝えようとしているメッセージを…
いつものように昼休みに雑誌にレポート用紙をはさんだ。
けど、今日はいつもとちゃうんや…
このままでは埒があかへん気がして、今日の答えは直球勝負の言葉を用意した。
これで俺のこと気付かへんかったら…もうどないしたらええかわからへん…
はあ…
「あらあら、光にため息は似合わないわよ〜?」
「うあっ!?」
突然後ろからかけられた声に、思わず変な声出して飛びのいてしもうた。
飛び下がって本棚にもたれる俺ににっこり笑うんは小春先輩…
「い…いつの間に後ろにいたんスか…」
「あら?ずっといたわよん」
「誰かさんがず〜っと1人の女の子を見てる間中ね!」
ビクンと肩が震えたことを小春先輩は見逃さへんかったんやろう…
さらに近づいてきて、眼鏡をゆっくりと上げて言った。
「その表情…その視線…その挙動不審ぶり…」
「それはずばり…恋ねっ?!」
「…っ…!」
そんなんちゃうて言わなあかんのに…声が出えへんかった。
何で…よりにもよって小春先輩にばれたんやろ…
いや…うちの部であなどられへんのは部長らより小春先輩や…
部長らに気付かれへんようにしてたくせに、小春先輩はノーマークやった俺が油断してたわ…
「こ…小春先輩…」
「ん?どないしたん?」
「他の先輩らには…このこと…」
言いかけた俺の言葉をさえぎるように…
「光の…あ・ほっ!」
「…った…!」
小春先輩のチョップが俺の額に落ちた。
結構強めやったから額がジンジンして手でなでてたら、大げさやろて思うくらい大きなため息が聞こえてきた。
「そないなこと、ペラペラしゃべるて思うてるん〜?傷つくわぁ…」
手どけて小春先輩の顔見たら、からかうよう言い方やったのに、意外にもまじな表情でこっちを見てた。
「光が本気で好きになった子やろ?からかったりせえへんわ」
「先輩…」
「まあ、うまくいったらからかうかもしれへんけど♪」
そうや…
俺、あほなことしたわ…
小春先輩がそんなんでからかうわけあらへんかった…
「すんません…」て謝ったら、いきなり小春先輩が抱きついてきた。
「なっ…何して…!」
「う〜ん!光君はええ子やわぁ!」
「先輩…きもい…」
「アンタはもう!ひと言多いわ、ホンマに!」
ポイって放り出されるように離されると、小春先輩が自分の制服のポケットから何かを取り出した。
「ま、せつない片思いに免じて、ええもんあげましょか」
「ほいっとな!」
2つ指ではさんで差し出されたのは1枚のハガキ
これ…
「先輩、これっ…!」
顔を上げたら、もう俺の横を通り過ぎてて、後姿がひらりひらりと手を振ってた。
「それ、彼女が見たがってた映画。リサーチは完璧やで!」
「恩返しは出世払いでええわ♪」
後姿が見えなくなってから、もう1度手渡されたハガキに目を落とした。
映画の試写会のハガキ
ユウジ先輩と見に行くんやて大喜びしてたやつや。
俺も行きたいて思うて出したけど、外れてしもうたんや。
こんなんくれたってことは…とっくの昔にばれとったってことやな…
いつからばれてたんやろ…
それにこれ…
今度の土曜日…部活が午前だけの日やんか…
これは先輩なりの「はよ、告白しいや」ってことなんやろな…
小春先輩のアシストが俺の心にかかってたリミッターをカチリて外した気がした。
あの人がパズルの暗号を解くまでは、俺からは何もリアクション起こさへんて決めてたけど…
もうええ…
あの人が俺のことに気付かんでも、パズルの暗号を解けんでも…
もうええんや…
絶対に今日の放課後、声かける…
遠まわしな方法やなくて真正面から向き合って
絶対に振り向かせるんや…
小春先輩がくれた切り札を大事にポケットにしまいこんだ。
はあ…解かれへん…
今日の昼休みに届いたクロスワードは、今までで1番難しい…
放課後、図書室に残ってまで解いてんのに、全然進まへん…
今日こそはこのパズルに隠された暗号…いや、隠れてるかどうかもわからんけど…
絶対解き明かそうて思うてたのに…
このクロスワードの答えがわからんかったら、暗号がわからへんやん…
あまりにも難しかったから、ちょお休憩でもしよて思うて、いったんシャーペンを置いた。
うーん…今日の答えはひとまずおいといて、今までのだけで考えてみよかな。
単語の中に言葉が隠されてるんかな…
けど、「MAN」なんて短い単語に言葉が隠されてるとは思えへんよね…
言葉と言葉をくっつけてみても意味がつながらんし…「AFTER」が名詞やのうて前置詞やからなおのこと意味不明やしね。
ほな、日本語にしてみたら…いや…漢字やなくて、カタカナかな…
いろいろと考えてみたけど、いまいちこれていう解答が出てけえへん…
全くわからへんかったから、何気なく送られてきた紙を来た順番に並べてみた。
「LIBRARY」「PUZZLE」「MAN」「TENNIS」「COURT」「AFTER」「SCHOOL」
あれ…
これ…最初は答えを並べみても意味なんてあらへんやろて思うてたけど…
来た順に並べてみたら意味があるような気がしてきた。
「図書館」…「パズル」…「男の人」…「テニス」…
「COURT」は「法廷」て意味もあるけど、前が「テニス」やからたぶん「コート」でええと思う。
それと「AFTER」と「SCHOOL」は別々に考えてたけど、これは2つで「放課後」ちゃうかな…
もしかして、これって…
「図書室でパズルを解いてる男は放課後、テニスコートにいる」
…ってことちゃうかな…
うわぁ…こんなに簡単な暗号やったんや…
こんなことやったら、はよ並べてみたらよかったわ…
え…てことは…
このパズルを作った人は…テニス部ってことや…
テニスコートに来いて言いたいんやわ、きっと!
あわてて立ち上がって、カバンを持った。
雑誌をラックに戻そうて思うたけど、これがあった方がええ気がしたんで、こそこそっとかばんで隠しながら誰にも見つからんように図書室を出て、ダッシュで駆け出した。
たぶん、放課後もあの人は図書室にいる。
まだ、あのクロスワードを解いてる気がする。
けど、いつも俺より早く帰ってまうから、部活が終わってからやと会われへん。
途中の休み時間に抜け出したら何とかいける…
抜け出してどっか行くてなったら、誰かに何か言われるやろうけど、もう周りにばれてもうてもええ。
今日こそ声かけるんや…
抜ける時は近くの先輩に言うとくことになってるから、謙也先輩に声かけた。
「謙也さん…」
「ん?何や?」
「次、休憩の時、ちょっとだけ抜けるんで」
「めずらしいな、財前が抜けるやなんて。どこ行くんや?」
「それは…あ…」
「どないしたん?」て声かけられた気がしたけど、耳には入ってこうへんで…
謙也さんの顔も見えてへんかった…
俺の視線の先にあるのは…
フェンスの向こうに立つ人…
片手にはあの雑誌を持って
もう片方の手はフェンスの金網を握り締めて
息せき切って走ってきたのか、はあはあと荒い息をついていた。
あの人や…
「ざ、財前?!」
謙也さんの声にも…
「ちょおっ!財前、どこ行くんや?!まだ休憩ちゃうで!」
部長の声にも答えんと、フェンスめがけて…
あの人めがけて、駆け出した。
あの人が…やっと来てくれた…!
この時、頭の中は真っ白で…
あの人のことしか考えてへんかった。
テニスコートに来たものの…
どないしよ…
声かけたくても、誰なんかわからへん…
そもそも、パズルの暗号があれであってるとは限らへんもんね…
テニス部やってこともテニスコートに来いていうんも、私がそう思うただけで間違ってるかもしれへん…
知ってる人が何人かおるけど、誰かわからんのに聞くわけにもいかんし…
ホンマどないしようて思いながらキョロキョロと見渡してたら、1人の男の子と目が合った。
あ…
目が合ったと思うたら、こっちに向かって走ってきた。
見たこともないし、当然話したこともない男の子やったけど…
何でかわからんけど、あの挑戦状の送り主て気がした。
あの難解でクールなパズルを作るだけあって、外見もクールやなって思った。
その彼が近づきながら、私の名を呼んだ。
「先輩」
その表情は無表情に見えて、どこか優しい感じがして…
ドキドキと胸が鳴っていた。
やっと気付いてくれた…
やっと俺にたどりついてくれた…
ここがテニスコートやとか外野がうるさく何か言うてるとか
そんなんもう頭には全然ない…ただ1人を見てた。
あと少してところでスピードをゆるめて、ゆっくりと近づいた。
視線は手に持ってる雑誌に…それから彼女の顔に向けた。
俺のことをまっすぐに見つめるその目を見るだけで、緊張で震えてしまいそうやった。
のどがやたらかわく…
手のひらもじんわりと汗かいてる…
けど、これが待ちに待ったチャンスなんや…
ぐっと手を握り締めると、フェンスに一歩近づいた。
至近距離で見たのは初めてで…
思わずかわいいて見とれてしもうた。
「財前光いいます」
何か言わなあかんて思うて口を開いたら、最初に出た言葉は自分の名前やった。
傍から見たら、こんなところでいきなり自己紹介て変やて思われるやろうけど…
本人を目の前にしたらそんなこと、もうどうでもよかった。
とにかく俺のこと知ってほしい…それしか思うてへんかった。
俺の名前を聞いて、彼女があわてた様子で口を開いた。
「あ…わ、私は…」
「知っとります。先輩て呼んだやないですか、さっき」
名前を知ってることに驚いて、目をおっきく見開いてパチパチさせるんもかわいいて思うた。
あんな難解なパズルを楽々と解くくせに、とまどってそわそわしてる仕草はめっちゃかわいらしい。
あかん…
こっちが先にやられてしまいそうやて思うて、必死で心を抑えつけて、平然としてるフリ装って話を続けた。
「ここに来てくれたてことは、俺のことが気になったからでええですよね?」
驚いてた顔がさっと赤くなって、うつむこうとする…
あかん…逃がさへん…
「隠さんといて下さい…俺も同じやから」
同じ…いや、きっと俺の方が想いが大きい…
名前と顔を知ってた分、俺の方が想うてる…
けど、そんなんはどうでもええんや…
俺のことが気になってるてことだけで今はええ。
勝負はこれからやから。
「いきなり付き合うて下さいとは言わへんから、これに付き合うて下さい」
小春先輩にもろうたハガキをジャージのポケットから取り出して、よう見えるように彼女の目線にあわせて掲げた。
じっと見つめていた彼女はゆっくりとハガキから視線を外して俺に向けた。
その表情にはもう驚きもとまどいもなくて、おだやかな表情で俺を見ていた。
「先輩…?」
答えがはよ聞きたなって…不安もこみ上げてきたせいやけど…名前を呼んだら、彼女がゆっくりと話し出した。
「あの…1つだけええかな…?」
「何ですか?」
断るんとちゃうやんな…
一気に不安になって思わず顔をしかめてたら…
持っていた雑誌を開けて、レポート用紙を取り出した。
クロスワードがまだうめられてへんことに気をとられていたら、彼女が続けて言った。
「私…これ…どうしても解かれへんかってん…そやから…」
「ヒント教えてくれたら…喜んで付き合うわ」
パッと顔上げたら、はずかしそうに微笑んでた。
その笑顔がめっちゃかわいらしくて…俺だけに向けられてるのがうれしくて…
もう冷静なフリなんかできへんかった…
フェンス越しがもどかしくて、ハガキを手に持ったまま、コートを出た。
ポカンと口を大きく開けたままの謙也さんたち
怒るのも忘れて、あっけに取られてる部長
小春先輩だけはウィンクしてて…
そういうのを目に入ってながらも、全部スルーして彼女のところへ走った。
たいした距離でもないのにはあはあと荒い息ついて
鼓動が大きく鳴って
けど、それが全部走ったせいやなくて、彼女のこと思うてるからやて今はわかってる。
彼女の前に立って…
抱きしめてしまいたいて衝動が沸き起こってたけど…
俺の手は震えてしもうて、もう少しも動かせへんで…
手を握り締めることさえできへんかった。
らしないてわかってる…
わかってるんや…こんなん俺らしないて。
けど…
それでもええて思うくらい、彼女の前では格好つけられへん。
それくらい彼女が好きや…
声が震えそうやったけど、格好悪くなってもええ、笑われてもええから、ちゃんと伝えたいんや…
「ええですよ…」
「ヒントやなくて…答え、教えます…口でちゃんと」
予想通り、声がかすれて震えて、どないしようもなく格好悪いなて思うたけど…
そんな俺に、彼女は満面の笑みを向けてくれたんや…
ずいぶん後になってから…
光君はこの時のことを話してくれた。
『全然来てくれへんから、今日こそ告白してまおうて思うてたんですよ』
『けど気付いてくれて…フェンスの向こうに姿見えた時はめっちゃうれしかった…』
うれしかったと言いながら、全然表情には出さへんかった。
あの時も表情には出てへんかったように思う…
普段からクールやし、表情あんまし出えへんしね…
そう言うたら、ちょっとだけ表情が変わった。
『そんなわけあらへん…めっちゃ緊張しとったし』
素直にこぼす光君を見て、それはホンマかもしれへんなて思うた。
無表情でクールな外見やけど、ホンマはあんなに遠回しのアプローチしてくるような人やし…
もっと素っ気ない態度と言葉を言う人なんかなて思うてたけど、付き合うてみたら、意外にもまっすぐ気持ちぶつけてくるし…
付き合うようになるまでは少し時間がかかったんやけど、付き合うようになる前も後もめっちゃ大切にしてくれる。
ホントは熱い人なんやなて思う。
そうそう…
最後のクロスワードやけど…
テニスコートで初めて会うて数日後の昼休みにもう1度一から解いてみた。
結局、答えは自力で解くことにした、ちょっとだけヒントもろうて。
光君が口で教えるて言うてたけど、私がどうしても解きたい言うたから。
光君が作ってくれたものは全部自分で解きたかったんや。
光君の隣で、時間かけて何とか解いてみたら…
答えは「I LOVE YOU」やった…
さ…最後のパズルの答えて…
こ、こんなベタな告白の言葉やったんや?!
予想外の答えに真っ赤になってしもうてたら…
『全然気付かへんかったから、これくらいせんとあかんて思うたんです』
『これやったらいくら鈍感でも気づくやろうなて』
そう言うと、プイッと横向いてしまった。
考えてみたら結構失礼な言葉やなて思うたけど…
それ言った光君の横顔も私と同じく真っ赤やったから、許してあげた。
テニスコートで初対面を果たしてから数日後の昼休み…
まだお付き合いはしてへんかったけど、ちょっとずつ距離が近づいていってる…
そんな予感がしていた。
その予感は当たっていて…
それから数ヵ月後、光君の彼女になった。
『好きや…』
『俺と付き合うて下さい…』
震える腕でギュウギュウと抱きしめて
震える声でまっすぐに伝えてくれる言葉に…
全然言葉が出えへんで、うなずくばかりやった。
後から「もうちょっとかっこよく告白したらよかったわ…」て光君は落ち込んでたけど…
私は…めっちゃうれしかったんよ…光君…
約束した土曜日
映画の前に軽く何か食べて
寄りたいところ…て言うか俺が彼女を連れて行きたいて思うところがあって
あれやこれやて計画してても、午前中は部活があるから、どっかで待ち合わせて行ってたらどうしても一緒におる時間が少なくなってまう。
そう言うたら「それやったら、私も学校行って図書室で待ってるわ。午前中は開いてるから」て彼女が言うてくれた。
待ってほしいとは思ってても言い出せへんかったから、うれしかった。
そやから、部活終わったらはよ行かんとて急いでんのに…
「財前っ!ちょお待てや!」
「しつこいっスよ…先輩…」
着替え終わった俺の腕を謙也さんがガシッてつかまえて離してくれへん…
「いつ彼女と知り合うたんか白状するまでは離さへん!」
毎日…ホンマしつこいわ…
「そやから…そんなん聞くことちゃうて何度も…」
「ちょっとくらい教えてもええやろ!めっちゃ気になるんやから!」
「何でそないに気になるんですか…」
はあってため息ついてたら、後ろからポンって肩に手が置かれた。
「謙也が気になるのもしゃあないわ…」て肩越しに部長の声が聞こえた。
「あの子、めっちゃかわいいのにガード固いて、ねらてるやつらがなかなか近づけへんてうわさなんやで?」
「……先輩達もねらてた…てオチとちゃいますよね…?」
「ねっ、ねらてたわけとちゃうけどな!…かわええなぁとは…まあ…」
「なあ、白石?」「まあな、その意見には賛成や」て顔を見合わせて言う2人見て、またため息ついた。
ホンマ…
油断も隙もないてこのことやな。
雑誌越しでしか出会われへんて、慎重すぎて自分でも情けないわて思うてたけど…
逆に先輩らにばれんでよかったかもしれんわ…
ばれてたら邪魔されてたかもしれんし。
「もうほんま離して下さい…これから彼女と会うんで」
力をこめて謙也さんの手を離すと、今度は謙也さんが盛大なため息をついた。
「はあ…幸せもんはこれやからいややな…」
「ホンマ、ホンマ」
謙也さんと部長のひとり言みたいなぼやきに付き合うてる間も惜しいから、軽くスルーしてドアを開けた。
そしたら、彼女が少し離れたところで立っているのが見えた。
俺の姿が見えると、うれしそうに手を振ってくれた。
「財前君!」
待ちきれなくて来たとばかりに駆け寄ってくる彼女を見て、今すぐここで抱きしめたいて気持ちでいっぱいになった…んやけけど…
あかん…先輩らにまた何言われるかわからんわ…
何とか思いとどまって、「待たせてすんません」て謝った。
「ううん、ええよ。光君のパズル解いて待ってたから退屈せんかったしね」
うれしそうに笑う彼女を見て、抑えきれへんようになって、思わず手をのばしかけたら…
「あーっ!!」て、めっちゃでかい声が後ろからかけられた。
絶妙なタイミングで邪魔されて、仕方なしに振り向いたら、いつものメンバーがわらわらと部室から出てきた。
「どこに行くん?!何か食べるんやろ!?わいも行きたい〜!!!」
「こらこら、金ちゃん、邪魔したらいかんで」
「金ちゃんには白石がおごってくれるとね」
「ホンマに?!よっしゃぁー!!」
「何、勝手なこと言うてるねん…千歳…」
「いいわね〜、たまには部長におごってもらいましょ!」
「ホンマや、ちょうど昼時やし」
「あほか!何で俺が…」
「わしは大ダコと回転焼きが食いたい…」
「し、師範まで…」
ギャアギャアといつもの騒ぎ声が聞こえる中…
「いつもにぎやかやね、テニス部」て彼女が笑ってた。
そんなかわいい顔で笑わんとってほしい…先輩らがおる前で。
ここからはよ連れ出したくて彼女の手を取ると、はずかしそうに俺を見上げて微笑んだ。
「にぎやか言うより、やかましい言うんですわ…」
歩きながらちらっと肩越しに振り向いたら…
小春先輩がこっち見て、「が・ん・ば・れ!」って口パクで伝えてきた。
何をがんばるんやろ…て思いながらも、小さく手を振って返した。
End by mizuki 様
background by Quartz 様