「あ、教科書……」


がたがたと机の中を探してみるけど、目当てのものはそこにはなかった。
そういえば、昨日勉強もせえへんのに、家に持って帰ったような気がする。
はあ、と一つため息。
それから視線を、ちらりと左にうつした。
窓際の一番後ろ。
うちの、隣の席。


「白石、教科書見せてくれへん?」





先生に許可を取り、机を寄せる。
白石は頬杖をつきながら、こちらを見た。
どうやら白石は、頬杖をつくのが癖になっているらしい。
なんか発見。


「自分、置き勉してんちゃうん?机の中ごっちゃごちゃやん」
「いや、昨日うっかり魔がさして持って帰ってもうてん……」


なんやそれ、と白石は笑った。
ノートをかりかりと写していると、ちょんちょんと腕をつつかれる。
何?と小声で口にして、白石の方を見た。
白石はあれ、と教室の前方を指差した。
そちらに視線を移すと、仲よさ気に笑いあっているうちの友達とクラスの男子。
白石に視線を戻すと、白石は小声で言うた。


「あの二人、付き合ってるん?」
「うん。いつからやったかな、一週間くらい前かな」
「へえ、知らんかったわ」


自分は?
白石がそんなことを言うもんやから、うちはえっ?と思わず声を出した。


「自分はそういう人、おらんの?好きな人とか」
「んー、おらんなあ」


ふーん、と白石は軽く聞き流す。
聞いといて失礼なやっちゃな。
そう思ったら突然白石がこっちを見るから、視線がかち合って、ちょっとドキッとした。


「作らへんの?好きな人」
「うーん、皆そう言うけど、好きな人って作るものちゃうやん?」
「じゃあ、何やと思うん?」
「こう……びびびっとくるもんやん?」


分からんわ!と、白石はまた笑った。
まあそんなこんなで、白石と喋ってたから当然授業なんか聞いてへんわけで。
ふと視線を感じて、前を向いたら先生と目があった。
あ、やばい。
そう思った途端に先生はめっちゃ笑顔でうちの名前を呼んだ。


「はいきりーつ」
「は、はい……」
「ここの問題の答えは?」
「え、えーと、えーと……ちょ、ちょっと待ってな!」


おう、待つでえ
と先生は笑顔で言うた。
解けるわけがない。
誰か助けて、と心の中で呟いて、教科書に視線を落とした。
うちが今直面してる問題のところ。
小さく、薄い字で。
16.5Nって書いてあった。
ちら、と白石の方を見ると、なんかやたらどや顔してた。


「わ、分かった!」
「お、なんや?」
「じゅ、じゅうろくてんごえぬ……」
「ちっ」
「ちって何よ!ちって!」
「はは、ええよ、座り」


先生は笑って授業を再開した。
うちはいまだにドキドキしてる心臓を落ち着けながら、腰を下ろした。
白石は、にこにこしてた。


「あってたやろ?」
「ありがとう。白石いつもそうやったら、もっとモテるのに」
「これ以上モテても困るわ」


うわ、嫌味!
うちはそう言うて笑った。


「あーあ。うちもモテたいわ」
「えー?モテるんちゃうん」
「あんたが言うたら嫌味やわ」
「ちゃうちゃう!本心やって!」


どうなん?と白石が目線で聞いてくる。
うちは頬杖をついて、ため息をついた。


「モテてたら、こんなに飢えてへんわあ」
「ふーん……」



「まあ俺は、そういうのことすきやけどな」





横顔で何を言う





(あ、今びびびっときたかも……)
(せやろ?)
(うわ、どや顔出た!)



End by SAKURA 様